アンジーの森です。生成AIはさまざまな場面で大きなインパクトを与えていますが、編集プロダクション業務を行う弊社でも、そのワークフローに大きな影響を及ぼしています。私自身、編集記者としてインタビューを行い、取材記事を制作していますが、そのプロセスもAIの進化によって変わりつつあります。
取材記事は編集者が企画をして、記者やライターがインタビューを実施し、書き起こし、構成を組み、執筆・編集する流れで作られていました。しかし、生成AIの活用により、音声の書き起こしや記事の構成案作成、要約や文章の最適化といったタスクが自動化されました。これにより、記事制作のスピードが向上し、編集者やライターの負担が軽減される一方で、企画の独自性を打ち出したり、ファクトチェックを徹底し、より高品質な記事を作ることに人の力を集中できるようになっています。今回から始める、アンジーのブログシリーズもAIと共に執筆して私が編集して仕上げています。
さて今回は、編集者やライター、オウンドメディアを手がける企業のPR担当者の方々に向け、AIを活用した取材記事制作の最新ワークフローを解説し、そのメリットと課題について考えてみます。
従来の取材記事ワークフローと課題
取材記事は、以下のような流れで制作されるのが一般的です。
1.企画:取材記事の目的やターゲットを決める
2.取材準備:取材対象者の情報収集や質問票の作成
3.取材:対面またはオンラインで取材を実施
4.文字起こし:音声をテキスト化し、記事の基礎を作成
5.構成作成:記事の流れを整理し、見出しや展開を決める
6.執筆:原稿を作成し、ストーリーを構築
7.編集・校正:事実確認や文章の推敲、表現の最適化
8.公開・配信:周知する
9.効果検証:アクセス解析して次の企画に活かす
このワークフローにはいくつかの課題があります。特にインタビュー内容の書き起こしや構成、執筆作業には多くの時間を要してしまうため、制作の効率を高めることが求められます。また、書き手ごとにスタイルや執筆スピード、スキルが異なるため、品質の均一化が難しく、編集者の調整が必要になります。
こうした課題を解決する手段として、音声認識AIや生成AIの活用が挙げられます。作業の効率を向上させ、記者や編集者が本来注力すべき「質の高いコンテンツ作り」に集中できる環境を整えられるのです。
AIが変える取材記事制作フロー
AIは取材記事制作のさまざまなプロセスに応用できます。記事制作のワークフローにおいて、AIがどのように活用できるのかを整理しました。
「1.企画」「2.取材準備」では、まずリサーチの補助があります。生成AIを活用し、関連情報の収集や質問リストの作成を支援できます。
「3.取材」については、当然ですが人が行います。この際、インタビュー音声やビデオの収録許可を得ることが重要です。録音は複数の手段で行い、収録失敗に備えます。取材中は手動でメモを取ることも必要です。音声をリアルタイムで文字起こしするアプリを利用する人もいますが、弊社ではまだ導入していません。
「4.文字起こし」では、文字起こし用のAIアプリケーションを使用し、音声データをテキスト化します。このアプリケーションは自社のAWS環境に構築しており、インタビューの言語に応じて英語や日本語のモデルを切り替えて使用しています。AIが作成した文字起こしデータをもとに、人が音声やビデオを確認しながら、誤りを修正します。
「5.構成作成」では、整理した文字起こしデータや関連資料をもとに、記事の流れや大まかな見出しを決めます。ここではChatGPTやClaudeなどの生成AIを活用することで、個人の視点だけでは見落としがちな別の視点を発見できることもあります。
「6.執筆」では、決定した構成に沿って記事を作成します。インタビュー記事の場合、対話形式で展開する方法と、記者の視点でストーリーを組み立てつつ、話者のコメントを「」で強調する方法の2種類があります。また、『敬体(です・ます)』または『常体(だ・である)』のスタイル選択、文字数制限、記事のパート分けなども考慮します。この工程においても、生成AIを補助的に活用する場合があります。
「7.編集・校正」では、文章の推敲や表現の最適化を行います。事実確認や矛盾点、誤字脱字のチェックのために生成AIを活用し、品質をさらに高めます。
「8.公開・配信」「9.効果検証」はメディアによって異なります。Webコンテンツの場合、アクセスログを解析し、生成AIにデータを解釈させることで、読者の反応を分析できると考えています。SEO対策として、本文以外のメタデータ作成や検索上位を狙った改善提案にも生成AIを活用できると考えています。
このようなAIの導入によるメリットは、スピード向上、人の負担軽減、品質の向上、コスト削減の効果をもたらします。たとえば、文字起こしAIを利用する以前は、60分のインタビューを手動で文字起こしするのに90分程度かかっていました。さらに、文字起こしを整理する作業は集中力を要し、時間だけでなく、気力・体力面でも大きな負担となっていました。しかし、AIを導入したことで作業時間が大幅に短縮され、負担も大きく軽減されました。
執筆のパートにおいても、構成をもとにした草稿を自動生成すれば、表現の最適化などの編集に集中できます。原稿の校正は通常、複数人でチェックしますが、AIを活用することで品質を維持しつつ、コストを抑えることが可能になります。もちろん、原稿の目的によっては、より多くの人が関与し、さらに高い品質を追求する場合もあります。
生成AI活用の課題と人の役割
AIは非常に便利ですが、完全に自動で記事を作成することはできません。生成AIは事実を正確に判断することができず、誤った情報や文脈を取り違えた内容を出力する場合があります。また、与えられた情報をもとに文章を生成するため、それ以外の背景情報や新しい知見、独自の経験を反映したオリジナリティのある内容を生み出すのは苦手です。さらに、話者の感情のニュアンスを正しく捉えることが難しく、事実確認を依頼しても、誤認識や数値の誤り、計算ミスが発生することがあります。
加えて、オンラインの生成AIサービスを利用する場合は、情報漏えいのリスクが伴います。受託案件には機密保持条項があるため、これらのサービスを利用できないケースもあります。この課題については、別の記事で詳しく取り上げる予定です。
意図を汲み取った深みのある表現、ターゲットに応じたトーン&マナーの調整、数値や事実情報の多重チェックなどは、人の手による確認が欠かせません。アンジーでは、AIなどのテクノロジーを活用しながら効率化を追求する一方で、要所要所で人が介入し、質の高い記事を提供することを目指しています。
人とテクノロジーとの共創で生まれる価値
生成AIを活用することで、取材記事の制作スピードを向上させつつ、ライターや編集者の負担を軽減できます。2020年に社内向けのAI音声文字起こしアプリケーションを開発して以来、1記事あたりの作成時間が25%〜30%減少しました。さらに2024年からは生成AIの記事制作ワークフローへの応用によって、作業時間がさらに最大30%ほど削減されました。2020年以前と比較すると、1記事あたりの執筆までの時間は半分以下になっています。これにより、より良い記事を作るための企画準備や、記事の品質を高める編集・確認作業に、より多くの時間を充てられるようになりました。
しかし、AIは万能ではなく、独自性の確保やファクトチェックには人間の関与が不可欠です。今後の取材記事制作は、AIと人間のハイブリッド型ワークフローが主流となるでしょう。AIは、取材記事制作において優れたアシスタントであり、効率化をもたらす強力なパートナーです。最終的に記事を「価値あるコンテンツ」とするのは、企画の独自性や視点、読者の求める情報を的確に伝える編集力です。テクノロジーの力を活かしつつ、人の感性と知恵で磨き上げることで、読者にとって本当に価値のあるコンテンツが生まれるのではないでしょうか。
私自身も、まだ試行錯誤の途中です。至らない点も多々ありますが、AIと共により良い記事制作を追求し、読者にとって価値のあるコンテンツを届けられるよう、これからも挑戦を続けていきたいと思います。
私たちアンジーがテクノロジーにこだわる理由は、社名「ANDG(アンジー)」の由来にもある 「ANALOG(人)とDIGITAL(テクノロジー)を組み合わせる」 というポリシーにあります。2005年の創業以来、デジタルネイティブな企業として、テクノロジーと共にコンテンツ制作に取り組んできました。次回の記事では、私たちがどのような企業で、どのような業務を行ってきたのかをご紹介します。