人とAIによる校正・校閲の分業マップ——AIに任せる4つ・人が判断する4つ

生成AIが「ファクトチェック完了」と報告してきたら、そのまま信じていいでしょうか。

答えは「いいえ」です。AIが「一次情報あり」と判定した記事が、実は二次情報の引用だった——現場でよく起きるミスです。AIに任せられる校閲作業と、人間が判断すべき作業を線引きしないと、記事の品質は守れません。

本記事では、6年間のAI活用ワークフローから整理した「AIに任せる4つ」と「人が判断する4つ」、そして3段階の指摘分類を一気に紹介します。

AI vs 人 ── 校正・校閲の分業マップ

本格解説に入る前に、全体像を表で確認してください。

AIに任せる4つ人が判断する4つ
1. 固有名詞・数字の照合1. 食い違いの「解釈」
2. 引用と原発言の一致確認2. 引用整形後の意味のズレ
3. 表記揺れ・用語統一3. 離れた発言の組み合わせ
4. 事実の食い違い検出4. 表現のトーン・温度感

基本ルール:人は必ず原典をあたることを肝に銘じる


校正と校閲の違いから整理する

校正と校閲は別の作業です。校正は誤字脱字・表記揺れ・体裁の確認が中心で、ルール化しやすくAIが得意な領域です。校閲は内容の事実関係・倫理・表現の妥当性確認を指します。「これを書いて問題ないか」の判断が常に伴うため、経験と文脈読解が必要です。

現在は校閲の領域もAIが支援し、最終判断は人が行う分業が可能になってきました。ただし、AIに任せてよい範囲とそうでない範囲を正確に把握しておく必要があります。


AIが機械的に検出できる校閲4観点

アンジーのワークフローでは、以下の4点をAI校閲の担当領域に設定しています。

1. 固有名詞・数字の照合

企業名・役職・製品名のスペル、売上高・調査結果の数値が原文・提供資料と一致しているかをチェックします。集中力を要する照合作業をAIに委ねることで、書き手の負荷を大きく軽減できます。

2. 引用と原発言の一致確認

文字起こしの原文と引用文を照合します。口語を文語に整形するのは問題ありませんが、意味が変わっていないか、発言していない内容を補っていないか。このクロスチェックにAIが有効です。

3. 表記揺れ・用語統一

「AI」と「人工知能」の混在、製品名の大文字・小文字のばらつき、業界用語の初出補足もれ。AIは「意味的に正しい」として表記揺れを見逃すため、セルフチェックさせる工程が必要です。

4. 事実の食い違い検出

記事内の記述と提供資料の突き合わせです。「記事では2023年とあるが、提供された資料では2024年になっている」のような食い違いを検出します。ただし、AIは食い違いを見つけても解釈を間違えることがあります。取材対象者が「2023年9月ごろから始めた」と話し、公式資料の試験開始日が2024年9月だったケースがありました。AIは「記憶違い」と判定しましたが、実際には「2023年=制作開始、2024年=試験開始」という正しい経緯でした。食い違いの検出はAIでできる。解釈は人間の判断が必要です。


AIに任せてはいけない判断4つ

事実の正確性に関わる3つと、表現のトーンに関わる1つで整理します。

事実の正確性軸

1. 食い違いの「解釈」

AIが「発言と資料が矛盾しています」と報告してきても、そのまま受け入れてはいけません。背景・文脈・業界慣習を知っている人間が最終的な解釈を下す必要があります。ハルシネーション(誤った情報の生成)のリスクと同様に、解釈の誤りも記事品質に直結します。

2. 引用整形後の意味のズレ

「〜なんですよ」を「〜です」に、「やっぱり」を「やはり」に変えるのはルール化できます。ところが、整形後の文章が元の発言と意味がズレていないかは、AIが見落とすことがあります。言い回しの変更が発言者の温度感や主張の強さを変えてしまうケースに注意が必要です。

3. 離れた発言の組み合わせによる意図変容

記事の都合上、講演やインタビューの前半と後半の発言を組み合わせたくなることがあります。その2つを並べることで、発言者が意図していないメッセージが生まれることがある。AIはテキストの照合はできますが、「この組み合わせが発言者の意図を歪めていないか」という判断は苦手です。

表現のトーン軸

4. 表現のトーン・温度感の調整

インタビューイーの発言をそのまま使うべきか、表現に配慮が必要かは人間の判断領域です。「資産管理の経験から」と留めるか具体表現をそのまま使うかは、文脈読解と倫理的判断の産物です。読者・情報提供者・媒体のバランスを考えながら調整する作業は、過信せず人の目で行う部分です。


校閲指摘の3段階分類

アンジーのワークフローでは、AI校閲の指摘を3段階に分類しています。

分類内容対応方針
致命事実誤認・捏造・発言していない内容の混入即時修正必須
要修正表記揺れ・口語の残存・引用範囲の誤り修正して再確認
望ましい文末の多様化・語彙の言い換え提案採否を判断

「望ましい」を残しているのは、書き手が最終判断を持てるようにするためです。校閲の結論を押し付けるのではなく、判断の余地を残す。それが分業として健全な形です。


「要確認リスト」という成果物

食い違いを検出した後、修正前に依頼主に提示する「要確認リスト」を作成します。

(要確認リストの形式例)
| 項目 | 記事の記述 | ソースの記述 | 確認方法 |
|------|-----------|------------|---------|
| 試験開始時期 | 2023年9月 | 資料上2024年9月 | 担当者に確認 |
| 調査会社統計 | XX% | 二次引用の記事のみ | 調査会社公式サイトで照合 |

このリストを作ることで、「AIが見つけた食い違い」と「人間の確認が必要な判断」が分離されます。AI校閲が完成品を作るのではなく、人間の判断を引き出すための道具として機能する設計です。

AIが「一次情報を発見」と言っても、本当に原典のデータかどうかは自分で確かめます。該当数値へのリンクがなければ、調査会社のサイトほか複数の候補を検索する。納品時にはWordのコメントでURLを記しておく。この手順が「人は必ず原典をあたる」というルールの実体です。


校閲は「判断を残す」工程

致命的なミスの検出はAIが担う。解釈・配慮・文脈の判断は人間が残す。この分業が、記事品質を守る現実的なラインです。

校正・校閲は記事完成後だけでなく、取材設計の時点から始まっています。ブリーフィングや構成案の段階でタイムラインを明らかにしておくと、取材中の確認がしやすくなります。「2023年vs2024年問題」も、事前にプロジェクトの経緯を把握していれば、取材中に「それは制作開始ですか、試験開始ですか」と確認できます。AIが間違った判定で記事化する事態を、根本から防げるのです。

一次情報の確認・原典への照合・用語統一。こうした地道な工程を人間が手放さないことが、表記揺れやハルシネーションを防ぎ、記事への信頼を守ります。


次回からはAI編集部チームの話をしていきます

ここまで、アンジーのCLAUDE.mdに記したAIへの指示・制御について書いてきました。実はすでに我々はこれを「クラシック環境」としてアーカイブし、新たなステップに進んでいます。リサーチ、企画、文字起こし、誤字脱字修正、執筆、校正・校閲といった役割を個別のAIエージェントに分け、より柔軟な工程に対応し、質を高める環境を「AI編集部OS」として構築しています。クラシック環境も含めて GitHub に無償公開中です。

「AI編集部OS」のお問い合わせは、下記のKIJI Baseページから受け付けております。