自社事例:アンジー、プライベートな環境にAIシステムを構築し効率と情報管理を両立

概要

株式会社アンジーは、編集制作部門とWeb開発部門を併せ持つクリエイティブ企業です。取材記事や事例記事、ホワイトペーパーを毎月数多く制作する一方で、インタビュー音声の文字起こしや初稿作成の負担が大きく、記者や編集者が構成設計や表現の磨き込み、ファクトチェックといった付加価値の高い工程に十分な時間を割けない状況が続いていました。AIの活用も検討したものの、クライアントワークを中心とする業務特性上、セキュリティ面での制約が大きな壁になっていました。同社は自社のAWS環境にプライベートなAI活用環境を構築し、すべての処理をその中で完結させる方針を採用。記事1本あたりの制作時間は240分から105分へと短縮されました。

抱えていた課題

  • 文字起こしや初稿作成に時間を費やし、企画・構成やファクトチェックに集中できなかった
  • AI活用を検討するも、セキュリティ面での説明責任を果たせず導入できなかった
  • ツールの処理範囲やデータの取り扱いを、自分たちの言葉で説明することが難しかった

得られた成果

  • 記事1本あたりの制作時間が 240分から105分へ短縮
  • インタビュー質問票の作成時間が 従来比で約50%削減
  • 文字起こしから初稿に到達するまでの時間が およそ6割短縮
  • 編集者が企画・構成や事実確認といった工程に集中できる体制が確立
  • 制作フローとデータの取り扱いを、社内外に説明できる状態に

採用技術

  • 基盤:AWS(東京リージョン)のプライベート環境
  • 文字起こし:Amazon Transcribe(英語)/ AmiVoice(日本語・暗号化通信・AI学習不可のAPI経由)
  • 生成AI:Amazon Bedrock 経由の Claude(API経由・入力データはモデルの学習に使われない)

本文

効率化したい。でも、外には出せない

アンジーは2005年創業の、編集制作部門とWeb開発部門を併せ持つクリエイティブ企業です。近年ではBtoB分野の記事制作とシステム開発を両輪として展開し、クラウドベンダーやSaaS企業、SI企業などを中心に、数多くのメディアや企業のコンテンツ発信を支援しています。

編集制作部門では、取材記事や事例記事、ホワイトペーパーなどを毎月数多く制作しています。一方で、制作現場では慢性的な課題もありました。とくにインタビュー音声の文字起こしや初稿作成は負担が大きく、記者や編集者が構成設計や表現の磨き込み、ファクトチェックといった付加価値の高い工程に十分な時間を割けない状況が続いていました。

こうした制作フローを支援するため、AIの活用も検討しましたが、クライアントワークを中心とする業務特性上、セキュリティ面での制約が大きな壁となっていました。

「特にISO/IEC 27001の認証を取得している企業など、情報管理に厳格なお客様が多く、未公開情報や取材内容を扱うケースも少なくありません。ツールの処理範囲やデータの取り扱いについて、こちらから明確に説明できなければ、実運用は難しいと感じていました」

こう語るのは、編集制作部門の責任者である森英信です。

「自分たちの言葉で説明できる環境」を選んだ

一方、この課題に対し、技術面から解決策を検討したのが、システムの開発・デザインを担当した川野辺亮です。

「効率化だけを目的にするのであれば、ChatGPTなどのクラウドサービスを使う選択肢もありました。しかし、どこでデータが処理され、どこに保存されるのかを自分たちの言葉で説明できる環境でなければ、編集現場も顧客も安心できません。そこで、自社のAWS環境にシステムを構築する方針を取りました」

アンジーでは、AWSの国内リージョンにプライベートなAI活用環境を構築し、すべての処理をその中で完結させる方針を採用しました。効率化とセキュリティを同時に満たす構成を目指した形です。

まず、文字起こしから

最初に取り組んだのが、インタビュー音声の文字起こし環境の構築でした。森は、当時の状況を次のように振り返ります。

「当初は、PC上のローカル環境からAWSのAmazon Transcribeをコマンドラインで実行し、文字起こしを行っていました。特に英語において文字起こしの品質が高いと判断し、継続的に使えるようアプリケーション化することにしました」

この要望を受け、開発部門では編集制作のワークフローを丁寧にヒアリングし、Webブラウザから音声ファイルをアップロードするとAmazon Transcribeが動作し、文字起こし結果を取得できるアプリケーションを開発しました。

開発を担当した川野辺は、次のように説明します。

「ユーザー認証を含めたプロトタイプをまず作り、編集部門に実際に使ってもらいました。そのフィードバックを反映しながら、段階的に改善を重ねていきました」

なお、日本語の文字起こしにはAmiVoiceを採用し、暗号化通信・AI学習不可というセキュアなAPI経由で連携しています。これにより、同一のアプリケーション上で、用途や言語に応じて複数の文字起こしAIモデルを使い分けることが可能になりました。

生成AI基盤に、AWSを選んだ理由

次に取り組んだのが、記事の企画案作成や草稿生成、表記ルールのチェックといった工程への生成AIの活用です。生成AI基盤の選定にあたっては、Azure OpenAIを含む複数の選択肢を比較検討しました。

最終的にAWSを選択した理由について、川野辺は次のように語ります。

「Azure OpenAIも選択肢として検討し、簡易的な検証環境も用意しました。しかし、編集部門からは使い方がやや難しいというフィードバックがありました。既存のAWS環境との親和性に加え、社内で完結して運用・改善できる点を重視しました」

生成AIには、Amazon Bedrock経由で利用できるClaudeを採用しました。一般のClaudeと異なりAPI経由で利用でき、入力データがモデルの学習に使われない仕様である点も、重要な判断材料でした。

構築を担当した開発部門の野中利哉は、導入時の工夫について次のように説明します。

「まずはAWSの米国リージョンに環境を構築して動作確認を行いました。編集部門から有効だというフィードバックを得たうえで、データを国内にとどめるため、東京リージョンに再構築しました。同じAWSでもリージョンごとに設定内容が異なるため、実運用を見据えた細かな調整が必要でした。Claudeの新しいモデルが登場したらすぐに採用するなど、改善を重ねています」

これにより、安全性を確保しながら最新技術を活用できる体制が整いました。社内で継続的に改善できる点も大きなメリットです。

減ったのは作業。編集は、減っていない

AI活用基盤により、編集制作のフローには明確な変化が生まれました。

記事1本あたりの制作時間は、従来の240分から105分へと短縮されています。内訳を見ると、変化の中身がはっきりします。

工程従来AI活用後
文字起こし60分10分
下書き作成90分15分
編集90分80分
合計240分105分

大きく減ったのは文字起こしと下書き作成で、編集の時間はほとんど変わっていません。作業が減った一方で、編集そのものにかける時間は維持されている。つまり、時間の重心が作業から編集へ移ったということです。

このほか、インタビュー質問票の作成時間は従来比で約50%削減され、迅速に提出できるようになっています。また、インタビュー後の文字起こしから初稿に到達するまでの時間は、およそ6割短縮されました。

これらの成果について、森は次のように語ります。

「この仕組みの目的は、単に作業を早くすることではありません。編集者が本来注力すべき、企画・構成や表現、事実確認といった工程に時間を使える状態を作ることです。お客様に対しては、提案時には以前よりも早く、かつより多くの選択肢を提示できるようになりました」

外部のライターなどパートナーの負担も軽減されています。取材前から企画や構成が整理され、文字起こしの精度が安定したことで、やり取りの回数や手戻りが減少。その結果、編集制作チーム全体がより強固になっています。

制作フローやデータの取り扱いについて、自分たちの言葉で説明できるようになった点も大きな成果です。提案時や打ち合わせの場においても、セキュリティに関する制約について適切に対応できるようになりました。

制作環境の整備まで含めて支援する

アンジーのAI活用環境は、社内利用を前提とした仕組みですが、今後は社外案件にも横展開していく予定です。今後の展望について、森は次のようにコメントしました。

「生成AIを活用して、記事制作の内製化を検討する企業も増えています。一方で、人とAIによる制作フローに悩む企業も少なくありません。私たちは、AIの機能だけでなく、AIと協働する記事制作のワークフローも磨いてきました。制作環境の整備まで含めて支援できる点が、今後の強みになると考えています」


会社概要

株式会社アンジー(英語社名:ANDG CO.,LTD.)

  • 設立:2005年
  • 所在地:〒101-0047 東京都千代田区内神田1-5-1 トライエム大手町ビル8F
  • 電話:03-6379-2520
  • Webサイト:https://andg.net
  • 事業内容:編集プロダクション。BtoB分野を中心に、取材記事・事例記事・ホワイトペーパーなどの制作と、業務システムの開発を両輪で手掛ける

担当者

  • 森 英信(編集制作部門 責任者)
  • 川野辺 亮(開発・デザイン担当)
  • 野中 利哉(開発担当)