【課題】記事制作の効率化とセキュリティの両立が急務に  アンジーは2005年に創業し、編集制作部門とWeb開発部門を併せ持つ制作プロダクションです。BtoB分野の記事制作とシステム開発を両輪として展開し、SaaS企業やクラウドベンダー、SI企業などを中心に、数多くのメディアや企業のコンテンツ発信を支援してきました。  編集制作部門では、取材記事や事例記事、ホワイトペーパーなどを毎月数多く制作しています。一方で、制作現場では慢性的な課題もありました。とくに取材後の文字起こしや初稿作成は負担が大きく、記者や編集者が構成設計や表現の磨き込み、ファクトチェックといった付加価値の高い工程に十分な時間を割けない状況が続いていました。  こうした制作フローを支援するためにAIの活用も検討しましたが、クライアントワークを中心とする業務特性上、セキュリティ面での制約が大きな壁となっていました。未公開情報や取材内容を扱う以上、ツールの処理範囲やデータの扱いを明確に説明できなければ、実運用には耐えません。  この点について、システムを開発・デザインした川野辺 亮は次のように語ります。  「機密情報を扱うこともありますので、効率化だけを優先するわけにはいきません。どこでデータが処理され、どこに保存されるのかを説明できない仕組みは使えない、という前提がありました」 【解決策】AWSプライベート環境でセキュアなAI活用基盤を構築  こうした課題を受け、アンジーでは社内で解決策を検討しました。その結果、AWSの国内リージョンにプライベートなAI活用環境を構築し、すべての処理をその中で完結させる方針を採用しました。効率化とセキュリティを同時に満たす構成を目指した形です。  生成AIの選定にあたっては、Azure OpenAIを含む複数の選択肢を比較検討しました。最終的にAWSを選択した理由について、川野辺は次のように説明します。  「Azure OpenAIも選択肢として検討し、簡易的な環境も用意しました。しかし、使い方が少し難しいとのフィードバックを得ました。既存のAWS環境との親和性や、社内で完結して運用・改善できる点を重視しました。編集制作部門と連携しながら小さく改善を回せる構成が必要だったのです」  生成AIにはAmazon Bedrock経由でClaude Chatを採用しました。API経由で利用でき、入力データがモデル学習に使われない仕様である点も、重要な判断材料でした。  導入にあたっては、Web開発部門が中心となりAWS上に専用環境を構築しました。音声文字起こしアプリケーションには英語なAmazon Transcribe、日本語はAmiVoiceと、用途に応じてモデル使い分け、生成AIと組み合わせることで記事制作を支援する仕組みを整えています。  設計段階で意識した点について、川野辺は次のように振り返ります。  「実装ありきではなく、まず編集制作の現場でどんな作業が行われているのかを整理しました。その流れに沿って実際に使ってもらい、フィードバックを受けながら調整を重ねました」 【成果】制作時間大幅短縮により付加価値創出業務に集中可能に  こうして構築したAI活用基盤により、制作フローには明確な変化が生まれました。インタビュー質問票の作成時間は従来比で約50%削減され、取材後の文字起こしから初稿に到達するまでの時間はおよそ3分の1に短縮されています。  これらの成果について、川野辺は次のように捉えています。  「この仕組みの狙いは、単に作業を早くすることではありません。編集者が本来注力すべき、構成や表現、事実確認といった工程に時間を使える状態を作ることです」  現在は社内利用を前提とした仕組みですが、今後は標準化を進め、社外案件にも横展開していく予定です。  「生成AIによって記事制作の効率が高まったことで、内製化を検討する企業も増えています。同様に、機密情報の取り扱いや制作フローに悩む企業は少なくありません。記事制作そのものだけでなく、制作環境の整備まで含めて支援していきたいと考えています」