アンジーでは、AIやAIエージェントと人が協働する記事制作ワークフローを実践しています。その知見を、伴走型支援サービスとして提供しているのが「KIJI Base(記事ベース)」。現在、インタビューや講演レポート記事などの草稿制作のためのAIへの指示をまとめた「CLAUDE.md」を無償配布しています。この記事は、その中身の解説シリーズです。
前回は、AIが発言を捏造してしまう問題と、それを防ぐためのルールについて解説しました。今回は、もう一つの頻出課題である「口語表現の書き言葉への変換」に関するルールを紹介します。
インタビューや講演の文字起こしをそのまま読むと、こんな表現が頻出します。
「やっぱり」「しっかり」「ちょっと」「〜かなと思います」「〜っていう感じで」「めっちゃ」「〜できてます」——。
会話では自然なこれらの表現が、記事の中に混入すると途端に読みにくくなります。でも、生成AIはこれらをそのまま引用に入れてくることがある。なぜでしょうか。
話し言葉と書き言葉の違い
そもそも、話し言葉と書き言葉は目的が違います。
話し言葉は、声のトーン・間・表情と一緒に機能するように設計されています。「やっぱり」「ちょっと」「〜かなと思います」は、その場の空気を和らげたり、発言の強さを調整したりするための表現です。
書き言葉は、声も表情もない状態で、文字だけで意味を正確に伝えなければなりません。話し言葉特有のクッション表現は、書き言葉の中では意味を曖昧にするノイズになります。
インタビュー記事の制作は、この「話し言葉」を「書き言葉」に変換する作業です。発言の意味・温度感・主張を保ちながら、読み手にストレスを与えない文章へ整えていく。それが編集という仕事の本質でもあります。
なお、記事の形式によって整形の度合いは変わります。記者の地の文が中心のナラティブ形式では引用を厳選して整形しますが、Q&Aのような対話形式では発言そのものが記事の骨格になるため、ほぼすべての発言が整形対象です。アンジーのCLAUDE.mdは両形式に対応しており、どちらの形式でも話し言葉を書き言葉に変換するルールが適用されます。
素起こし・ケバ取り・整文——3段階の整形プロセス
文字起こしの整形には、段階があります。
素起こし(すおこし)とは、音声をそのまま文字にした状態です。「えー」「あの」「そのー」などのフィラー、言い直し、かぶり発言も含めてすべて書き起こします。
ケバ取りとは、素起こしからフィラーや相槌、重複した言い回しを取り除いた状態です。発言の骨格は残しますが、読みやすさのために不要な部分を削ります。
整文(せいぶん)とは、さらに進んで話し言葉を書き言葉に変換した状態です。口語表現を書き言葉に置き換え、文構造を整え、引用として掲載できるレベルまで仕上げます。
インタビューや講演・パネルディスカッションのレポート記事で必要なのは、この「整文」のレベルです。CLAUDE.mdに口語変換ルールを定義するのは、AIに整文を正確に行わせるためです。
AIが口語表現を残す理由
生成AIは、与えられたテキストに忠実に振る舞おうとします。「発言を変えてはいけない」という意識が働くと、口語表現もそのまま残してしまいます。
逆に、「整形してください」と指示すると、今度は意味まで変えてしまうことがある。「やっぱり→やはり」のような単純な置き換えならいいのですが、「〜かなと思います→〜と確信しています」のように、発言者の温度感を勝手に上げてしまうケースもあります。
だからこそ、どの表現をどう変換するかを、CLAUDE.mdに具体的に定義しておく必要があります。
口語表現が記事に残ると何が起きるか
口語表現が残った記事を読むと、読者は無意識に「この記事、ちゃんと編集されていないな」と感じます。
たとえば:
「やっぱり、ユーザーの声をしっかり聞くことが大事かなと思っていて、そこはちゃんとやっていきたいんですよね」
この発言をそのまま引用すると、発言者が軽く見えてしまいます。実際には真剣に語っていたとしても、口語表現が残っているだけで、読者の受け取り方が変わります。
意図しない場合、このような表現は発言者にとっても、媒体にとっても、不利益です。
CLAUDE.mdの変換ルール一覧
アンジーのCLAUDE.mdには、以下のような変換ルールを定義しています。
| 口語表現 | 書き言葉(敬体) | 書き言葉(常体) |
|---|---|---|
| 〜なんです、〜っていう | 〜です、〜という | 〜だ、〜という |
| すごい、めっちゃ | 非常に、極めて | 非常に、極めて |
| やっぱり、ちょっと | やはり、少し | やはり、少し |
| しっかり、きっちり | 確実に、適切に、十分に | 確実に、適切に、十分に |
| 〜みたいな、〜だったりとか | 〜のような、〜など | 〜のような、〜など |
| 〜できてます、〜やってます | 〜できています、〜行っています | 〜できている、〜行っている |
| 〜かなと思います | 〜と思います | 〜と思う |
| 〜ということになります | 〜となります | 〜となる |
| 〜れる(ら抜き言葉)例:食べれる・見れる | 〜られる:食べられる・見られる | 〜られる:食べられる・見られる |
| 〜てる(い抜き言葉)例:やってる・なってる | 〜ている:やっている・なっている | 〜ている:やっている・なっている |
さらに、以下の整形ルールも加えています。
- 話し言葉特有の倒置・省略 → 標準的な文構造に修正
- 過度な敬語(「いらっしゃる」等)→ 標準的な敬語に調整
- 文末の「〜ですね」「〜ですよね」→ 文脈に応じて「〜です」に修正
Before / After で見てみる
先ほどの例文を、変換ルールに従って整形してみます。
整形前
「やっぱり、ユーザーの声をしっかり聞くことが大事かなと思っていて、そこはちゃんとやっていきたいんですよね」
整形後
「ユーザーの声を確実に聞くことが重要だと思っています。その姿勢は今後も大切にしていきたい」
印象が変わりましたね。発言の意味は変えていない。でも、読みやすくなり、発言者がより誠実に見える。
「整形」と「改ざん」の境界線
ここで一つ、重要な注意点があります。
口語表現の整形は、発言の意味を変えない範囲で行うのが鉄則です。言い換えが過ぎると、それは整形ではなく改ざんになります。
CLAUDE.mdには、この境界線も明記しています。
引用文の整形:意味を保持しつつ読みやすく調整する
禁止:発言者が言っていない感情・動機・意見を加える
禁止:発言の強度を変える(「〜と思う」→「〜と確信している」など)
AIはこの境界線を意識せず越えることがあります。整形後の引用は、必ず元の発言と照合する習慣が必要です。
記者文と引用文、それぞれの文体設定
もう一つ、CLAUDE.mdで設定しているのが、記者文と引用文の文体の使い分けです。
記者が書く地の文(記者文)と、発言者の言葉(引用文)で、文体を変えることができます。4つの組み合わせと、それぞれの用途をまとめると以下のようになります。
| 記者文 | 引用文 | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|
| 常体(〜だ・である) | 敬体(〜です・ます) | IT系・ビジネス系専門メディアに多い。記者の論述に締まりが出て、引用との区別が明確になる。最も一般的な組み合わせ |
| 敬体(〜です・ます) | 敬体(〜です・ます) | オウンドメディア・採用広報に多い。読者への距離感が近く、全体がやわらかい印象になる |
| 常体(〜だ・である) | 常体(〜だ・である) | 論文・白書・調査レポート・ホワイトペーパーに多い。全体が硬質でアカデミックな印象。ニュース速報にも見られる |
| 敬体(〜です・ます) | 常体(〜だ・である) | レア。敬体の記者文の中に常体の引用が混じると違和感が出やすい。発言者の「生の声」感をあえて際立たせたい場合に限られる |
アンジーのCLAUDE.mdでは、媒体ごとにこの組み合わせをプリセットとして登録しています。「プリセットAで」と一言指示するだけで、記者文・引用文それぞれの文体が自動的に適用されます。
あえて残す話し言葉もある
整形の原則を説明してきましたが、一つ補足があります。
すべての話し言葉を書き言葉に変換すればいいわけではありません。発言者の個性や感情が伝わる表現は、あえて残すことで記事に臨場感が生まれます。
たとえば「もう、完全にハマりましたね(笑)」のような発言は、整形して「非常に興味を持ちました」にすると、発言者の熱量が消えてしまいます。口語表現の中でも、発言者の人柄・熱意・専門性が伝わる部分は引用として残す価値があります。
CLAUDE.mdのルールは「すべての口語を排除せよ」ではなく、「読者にストレスを与える口語を書き言葉に変換し、発言の魅力を伝える表現は活かす」という意図で設計しています。整形と残すべき表現の判断は、最終的には編集者の目が必要です。
だからこそ、仕上げの工程には集中力が必要です。インタビュー音源を聞き直しながら発言の温度感を確かめ、文章の一行一行を読者の代わりになって読み、反芻しながら整えていく。この作業に向き合う時間と余力を確保すること——それが質の高い記事を生む条件です。
AIによる文字起こし・クレンジング・草稿生成は、その前工程を担います。下ごしらえをAIに任せられるから、編集者は仕上げに集中できる。これがAI駆動記事制作の中核にある考え方です。
次回は、絶対値表記のルールを解説します。「今年」「先月」という表現が、なぜ記事に使ってはいけないのか。時間が経っても腐らない記事を書くための考え方をお伝えします。
KIJI Baseについてのお問い合わせ・CLAUDE.mdのリクエストはこちらから
https://andg.net/kiji-base
